36Next Retail Lab 225()

速報レポート

「ワコールによるDXの取り組み」

青山学院大学 経営学部 経営学科

金子 緋里

 

今回参加させていただいたのは、ワコール株式会社 下山 廣様の講演である。

昨今の新型コロナウイルス感染拡大防止措置のために非接触を取り入れる企業が増えているが、ワコールは以前からDXの取り組みを進めてきた。

《DXの背景》

DXに取り組むまでの背景として、『鈍化した成長期』がある。1960-1970年代の百貨店拡大による成長、1980-1990年代の量販店拡大による成長後、鈍化した成長期が訪れた。百貨店・専門店・量販店という既存の成功チャネルが失速し、直営店・WEBの台頭してきたことによってお客様との乖離が生まれたためである。

そんな中、ターニングポイントになったのは「1997年」であった。消費税が3%から5%になったこの年には、百貨店や量販店における衣料品売上が減少傾向となる、通信費が衣料品にかける費用を上回るなど衣料品業界に大きな変化が訪れた。また、ファーストリテイリングのユニクロのフリースがヒット現在のZOZOであるスタートトゥデイやNetflixが創業するなど現代の成功企業が新しいことを始めた年でもあった。

《時代の潮流に合わせた戦略転換》

このような時代の潮流に合わせ、戦略転換が行われた。従来は、『チャネルを通じた売り方だけ』を見続けてきた状況があり、お客様とはチャネルを通じた間接的な繋がりのみであった。そして、一つの商品をより多く生産し、短期間により多くのお客様に届けることを重視していた。これを一新し、直接的な繋がりやお客様がワコールと過ごす時間をより増やしていただくことを重視する戦略へと転換した。特に、2016年からはDX推進により一人一人と「より深く、広く、長く」つながることを実現するオムニチャネル戦略に取り組み始めた。

しかし、オムニチャネル戦略を進めるにあたって、ワコールが従来から持つビューティーアドバイザー3500人と、2400の実店舗という強みを活かす必要があった。そのため、目指したのは、EC(Electronic Commerce)と融合した新たな実店舗であった。

《新リアルへの取り組みとオムニチャネル戦略》

実店舗には、わずか5秒で顧客の体型に関する様々な情報を入手でき、顧客はアプリを通じて後日データを見ることができる「3Dボディースキャナー」、購買履歴・商品の検索などのデータをもとに顧客に合った提案を可能にする「接客タブレット」、サイズ情報のチェックなど顧客とワコールのインタラクティブなつながりを実現する「パーソナライズアプリ」など、様々なサービスを取り入れた。そして、上記から得られる情報をもとにAIによる最適な商品提案へと活かすことで、既存の実店舗やビューティーアドバイザーは新たな戦略における強みになった。今後は、データの活用を進め、世界中のインフラとして広げていくことを視野に入れている。

このような実店舗での取り組みに加え、百貨店・量販店・WEBなどすべてのチャネルにおける顧客データ・在庫データ・商品データの全社一元管理化を行うことでオムニチャネル戦略を推し進めている。

20195月には「ワコール3D smart&try」のサービスを開始し、接触やサイズを測ること、会話によって生まれるストレスを解消した。もちろん、店員による接客も受けることができ、顧客の選択肢として提案されている。

また、このサービスにおける

『3Dスキャニング+体型分析+インナーウェアノウハウ+お客様の要望・嗜好=リコメンド』

という流れは、

『3Dスキャニング+体型分析+ 〇〇のノウハウ +お客様の要望・嗜好=リコメンド』

というように他業界でも応用可能であると考えられる。

そして、医療やアパレルなど様々な分野の膨大なデータをいつでも確認できる新たなデータプラットフォームを作ることが将来的に目指すところである。

このような取り組みを通してワコールが目指すのは、『リアルのデジタル化』=『リアルとデジタルが重なり合うこと』である。実店舗やそこにいるビューティーアドバイザーをはじめ『人』の存在を残すことで、従来から持つ強みを活かした新たなDX推進を実現出来る。

 

新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、非接触の動きが広まる中、従来から人の手、人による接客を大切にしてきたワコールの新たな取り組みを知ることができたことは、これからの時代に一企業で働いていく上での好奇心や期待感につながった。講演参加に至って、講演者の下山様、高崎様と、運営関係者の各様に心から感謝申し上げ、報告レポートとする。

“新しい時代の経営”を伴走します|青山Hicon

いま、時代が大きく変わる潮目にあります。
マスからネットへとメディアの主役が変わり、情報の流れが変わりました。AIやロボットは進化を続け、言語の壁や距離の遠さを越えてコミュニケーションができるようになりました。商品やサービスの企画、市場の設定、プロモーション戦略、何もかもがかつての経営論では太刀打ちできません。

この時代の経営者は、「グローバルな視点」と「文化」を軸にした戦略が必要と言えるでしょう。よろしければ私達と一緒に始めてみませんか。

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